東京地方裁判所 昭和31年(行)32号 判決 1960年3月17日
原告 米陀元次郎 外二名
被告 通商産業大臣
訴訟代理人 板井俊雄 外四名
主文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は原告等を異議申立人とする胆振国試登第五九〇九号の許可及び登録処分の取消に関する異議申立事件について被告が昭和三〇年一一月二四日なした決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、
その請求の原因として札幌通産局長は昭和二九年一〇月二六日訴外岩田一等の申請に対して胆振国試登第五九〇九号を以て鉱種名「鉄」の試堀権の設定の許可をなしその登録をなした。
しかしながら原告等はそれより先にほゞ同一鉱区内で鉱種名「硫黄硫化鉄等」の試掘権の設定の申請をなし、同年九月二一日その許可を得て胆振国試登第五八九九号として登録済みのものであるから右岩田等のなした申請は原告等のなした申請と鉱種名は異なるけれども同種の鉱床中の鉱物についての後願であるから重複申請として却下されるべきもので現に原告等の方が先きに許可登録されたものである。ところが札幌通産局長は鉄鉱は硫黄とは異種の鉱床内の鉱物であるとして前記岩田等の申請をも許可しこれを登録したものである。
そこで原告等は右許可及び登録に対して被告に対し異議を申立てたが、被告も亦原告等の試掘権を得た鉱物と鉄鉱とは異種の鉱床内にある鉱物として別個に許可登録されるのは違法ではないとして原告等の異議を棄却した。
しかしながら原告等の鉱区と岩田等の鉱区は殆んど同一地区であり鉱山局長通牒第三六三号の五分類によつても硫黄と鉄鉱とは同種として取扱はれているところから見ても原告等の申請と岩田等の申請は明かに重複申請である。仮りに硫黄と鉄鉱とが北海道では異種の鉱物として取扱はれているとしても本件鉱区では現に同一鉱床内に硫黄と禍鉄鉱及び鉄明ばん石とが共存しており、鉱物開発の見地から云つても二重の鉱業権を設定する必要の認められないものであるから岩田等の申請は重複申請として却下すべきものである。以上のように被告のなした許可登録は鉱業法第一六条第二九条に反し違法な処分であり、これを維持した被告の本件決定も違法である。よつて原告等は右決定の取消を求める、と述べ、
原告等の試掘権を得た鉱物と岩田等のそれとが同種の鉱床内にある鉱物であることについて別紙書面のとおり陳述した。(証拠省略)
被告指定代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告等主張のとおり原告等及び岩田等に試掘権の設定登録がなされたこと原告等が原告等主張のとおり岩田等の設定登録に対して異議を申立て被告がこれについて棄却の決定をなしたこと原告主張のとおりの通牒があることはいずれも認めるが右両試掘権の鉱物が同種の鉱床中に存するもので、岩田等のなした申請が重複申請で却下さるべきものであること、従つて被告の処分が違法であることは否認すると述べ、
硫黄と鉄鉱とが少くとも札幌通産局管内においては異種の鉱床の鉱物として取扱はれておりそれが妥当であることについて別紙書面(一)、(二)、(三)のとおり陳述した。(証拠省略)
理由
札幌通産局が原告等主張のとおり原告等及び訴外岩田等に対して試掘権の設定登録をなしたこと、原告等から右岩田等に対しなされた許可の登録について原告等主張の理由に基いて異議の申立をなしこれに対し被告が原告等主張のとおり棄却の決定をなしたことは当事者間に争ない。よつて本件では原告等の得た試掘権の対象である硫黄硫化鉄明ばん石等の鉱物と岩田等の得た試掘権の対象である鉄鉱とが同種の鉱床内の鉱物であつて原告等と岩田等の各試掘権が重複したものであるかどうかが争点である。
原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第六号証受命裁判官の検証の結果によると原告等の鉱区と岩田等の鉱区とは70%位が同一地区であることが認められ、原告主張の鉱山局長通牒第三六三号のいわゆる五分類によると原則として硫黄と鉄鉱とは同種の鉱物に属するものとして取扱われていることは当事者間に争ないところである。しかしながら成立に争ない乙第一号証、乙第二号証の一、二乙第三号証の一ないし八、第四号証の一ないし九によると前記五分類は原則として規定されているけれどもその例外も認められており現に各地方通産局でもその例外の取扱をなしているところもあること、札幌通産局においては古くからその試存状況や成因の異なる関係等から硫黄と禍鉄鉱とは別種の鉱物として取扱つていることが認められる。試掘権の設定許可が重複かどうかの基準は原則としては鉱区の同一であるかどうかによることは明かであるけれども異種の鉱床中に存する鉱物についてはこれを別に取扱いうるものとし何が同種の鉱床中の鉱物か異種の鉱床中の鉱物かについては、鉱業法その他関係法令にその基準を明定しておらない。それがために当事者間に争ないいわゆる五分類なる基準が定められこれに基いてそのいずれかを決定することとなつているけれども右五分類においても例外に認めており(右例外の存することは原告も争わない)右分類によれば同種の鉱物と認められるものでもその賦存状況や出願者の事業経営能力の如何を考慮し鉱物資源の合理的開発の見地から異種の鉱床中の鉱物として取扱われ、同種か異種かについては裁量の余地の存することが前記各証拠によつて認められる。そして成立に争ない甲第四五号証検甲第一ないし第五号証鑑定人斎藤正次の鑑定の結果受命裁判官による検証の結果によると原告等が共存地域として指摘する箇所(原告等及び岩田等の共通鉱区内)から硫黄分を含んだ褐鉄鉱が採掘されているけれども同一地層から硫黄鉄明ばん石等の鉱石は殆んど発掘されておらず褐鉄鉱の存する地層は他の層とは判然と区別されておることが認められ、原告等主張のように硫黒と褐鉄鉱とが同一鉱床中に共存しているとの事実はこれを認めるに足る証拠がない。
以上認定の事実関係からすると岩田等の鉱区は原告等の鉱区とは重複していることは明かであるけれども北海道通産局では硫黄と鉄とを異種の鉱床中の鉱物として取扱つていること前認定のとおりであり右取扱が不当であると認めるに足る証拠のない本件では(本件鉱区内において現実に硫黄と鉄とが同一地層或は同一鉱床中に共存し又は共存し得ると認めるに足る証拠はない)札幌通産局が岩田等に対しなした鉄鉱の試掘権の許可登録が原告等の得た試掘権と重複したものとして違法であるとはいえずその他に右処分が違法であることを認めるに足る証拠はない。
原告等は原告等の得た試掘権の対象となる鉱物の中には明ばん石も含まれており明ばん石と鉄明ばん石とは同種の鉱物であるからこの点においても重複というべきであると主張するけれども検甲第一ないし第五号証、前記検証及び鑑定の結果によると原告等の鉱区から鉄明ばん石は採掘されていない事実を認めることができるし前記乙号各証及び鑑定の結果によると明ばん石と鉄明ばん石とは異種のものと見ることが妥当であることが認められるから原告等の右主張も理由ないものというべきである。
そうだとすると原告等の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由なく失当として棄却すべく民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石田哲一 地京武人 桜井敏雄)
別紙(原告)
一、札幌通産局管内の鉄鉱鉱床の賦存地域は、道南地域の胆振、渡島、後志が大部分であり、(乙第三号証の二参照)本件係争区域は胆振国白老村及び胆振国幌別郡幌別町にまたがる面積百万坪の地域であるから、正に鉄鉱は賦存していると言うべく、従つて鉄は硫黄、金、銀、銅、硫化鉄、明ばん石と共存し又は共存し得べく同種の鉱床に存する鉱物であると言わねばならない。
又胆振国に於て実地調査の結果は第三紀層中の石英粗面岩に胚胎された硫化鉄鉱が二次的変化を受け赤鉄鉱と共存する状態の個所も存するのであるから、(乙第三号証の二参照)胆振国に於ては硫化鉄と褐鉄鉱とは共存し又は共存し得べき状態にあるものと言うべく、同種の鉱床に存する鉱物である。
従つて仮りに被告主張の六分類を是認するとしても、胆振、後志、渡島こそ五分類によつてなさるべきものである。
二、被告は道南地域の褐鉄鉱床は含鉄冷泉が湧出又は浸出して沈澱した鉱泉沈澱型褐鉄鉱床であり、他方硫黄鉱床は硫気ガスの作用に起因するもので両者その成因を異にするから、鉄と硫黄とは異種の鉱床中に存する鉱物であると主張しているが、然りとすれば被告が硫黄と同種の鉱床に存する鉱物であるとした金、銀、銅、硫化鉄、明ばん石は硫黄と成因を同じくするのであろうか。各鉱物そのものを抽出してその成因を云々することは全く理由のないことである。
のみならず日本における褐鉄鉱床はいわゆる鉱泉沈澱型鉱床が最も多く、大山火山列及び瀬戸内火山列を除いた各火山列中に存するものであり本件鉱区は那須火山列に属している。そして札幌通産局を除いて他の通産局は硫黄と鉄とを同種の鉱床に存する鉱物として取扱つているのであるから、被告の右主張はこの点からも理由がない。
又被告は鉱泉沈澱型褐鉄鉱床と硫化鉱の二次的変化による褐鉄鉱床との成因の区別を主張しているが、原告等が試掘権設定を出願した鉄は硫化鉄の二次的変化による褐鉄鉱のみを目的としたものではない。
加えて硫化鉄の二次的変化による褐鉄鉱床と鉱泉沈澱型鉄鉱床とは賦存状況において共存することがないとは言えない。例えば胆振国蛇田郡京極村に存する日鉄鉱業株式会社脇方鉱山は古くから褐鉄鉱を採掘しており、同鉱山の褐鉄鉱は鉱泉沈澱型褐鉄鉱床中の硫酸泉に由来する褐鉄鉱床であるが、最近その下部をボーリングした結果は硫化鉄の大鉱床に着脈した事実も存する。
三、被告は札幌通産局管内では同一区域について硫黄と鉄鉱とを同種鉱物として処理したものは一件もないと主張しているが(被告の主張からすれば鉄は他の鉱物とは異種鉱物ということになる。)次の如く胆振国において鉄を他の鉱物と同種鉱物として採掘権設定を許可している。
登録番号
町村名
鉱山名
鉱種
鉱区坪数
鉱業権者
(一) 採登四三
喜茂別
上喜茂別
鉄、砒
七一六、四〇五
日鉄鉱業株式会社
(二) 同六七
倶知安
岩雄
鉄、満俺
四四六、二〇〇
三ツ谷一郎
(三) 同二一
白老
白老
金、銀、銅、亜鉛、鉄
一八三、八八五
別子鉱業株式会社
(四) 同一三三
壮瞥
金、銀、銅
三二四ヘクタール
釡石実
鉄、硫化鉄
四六、アール
四、鉱業法の規定する異種、同種の区別は如何に解さるべきであろうか。原告等は次の如く解するを正当と信ずる。
即ちA鉱物とB鉱物とが同種鉱物なりや、異種鉱物なりやの判断基準は試掘権設定許可の段階においては、当該試掘出願地を包含する地域において当該鉱物が共存し、又は共存し得べき状態で賦存するや否やにより決定さるべきであり且つこれを以て足り具体的に試掘出願地におけるA鉱物とB鉱物の賦存状況を実地調査の上なす要はないと解すべきである。
勿論、当該鉱物の共存し得べき状態は単に抽象的のみにては足らず、当該試掘出願地を包含する地域において当該鉱物が具体的に共存し、又は共存し得べき状態に賦存することを要する。
或る試掘権出願地における二以上の鉱物が同種なりや否やは結局個々の場合について定めねばならないが、これは当該出願地を具体的に実地調査して判定する意味ではなく、当該出願地を包含する地域において当該鉱物が具体的に共存するや又共存し得べきやにより判定する意である。
原告等の右解釈は鉱業法第二十二条或は第三十九条によつても裏付けられる。鉱業法第二十二条は採掘権の設定出願をなすものに対し出願鉱物の出願地における鉱床の位置、走向、傾斜厚さその他鉱床状況を記述した鉱床説明書の提出を要求している。即ち採掘権設定許可の段階において始めて具体的に出願地における目的鉱物の賦存状況を明確にすることを法は要求しているのである。
従つて理論的には試掘権の設定許可に当つて同種鉱物として許可されても採掘権設定の場合異種鉱物となり得べく、その反対の場合も当然あり得る。
現に鉄鉱と他の金属鉱物とは被告主張によれば異種鉱物としての取扱基準であるに拘らず鉱床説明書によりこれが同種鉱物として採掘権設定の許可をなしている事実からも頷けることである。
更に鉱業法第三十九条は試掘権の設定を得ずに直ちに採掘権設定の出願をした者に対し通産局長は採掘出願地における鉱物の存在が明らかでなく、あらかじめ試掘を要すると認めるときは試掘権の設定出願を命ずることができる旨規定している。即ち鉱物が存在するや否や、又その賦存状況を明確にすることは採掘権の設定許可の段階において始めて必要となることである。
今若し試掘権設定許可の段階において出願地における鉱物の賦存状況を個々具体的に実地調査し、その賦存状況を明確にすることを要するとすれば右両法案は空文とならざるを得ない。
本件についてみても札幌通産局が硫黄と同種の鉱床に存する鉱物として試掘権設定を許可した金、銀、銅、明ばん石は個々具体的に実地調査したものではなく、本件出願地内におけるその賦存状態は何等具体的には判明していない。いわんや被告が主張するように鉱業技術上必然的に同一事業で掘採しなければならない状態で賦存するや否や不明である。にも拘らず札幌通産局は鉄鉱と硫黄とは異種鉱物となし、右金、銀等を同種鉱物としたのであるが、その合理的根拠は奈辺に在るや了解に苦しむ次第である。(被告主張の札幌通産局における六分類の基準はその主張によれば行政上の一応の取扱基準であり、これが鉱業法上正当なりや否やは確言できない旨被告の自認するところである。)
五、果して然らば本件係争鉱区における硫黄と鉄鉱とは共存し、又は共存し得べき状態にあるや否や次に検討する。
幌通産局管内の鉄鉱鉱床の賦存地域は道南地域の胆振、渡島、後志が大部分であること、そして本件係争鉱区は胆振国白老村及び同国幌別町に跨る百万坪の地域であること及び胆振国において実地調査の結果は第三紀層中の石英粗面岩に胚胎された硫化鉄鉱が二次的変化を受けて赤鉄鉱と共存する状態の個所も存することは前に主張している通りである。
而して本件係争鉱区を包含する地域は古くから硫黄及び鉄を目的としてかなり探鉱されたところであり、鉱床としても新第三紀及び第四紀の火山岩に関係のある硫黄鉱床及び褐鉄鉱床が主であつて、硫黄鉱床の大きなものとしては本件係争鉱区と六キロメートルの距離に幌別鉱山、九キロメートルの距離に白老鉱山があり、その他カルルス、千歳川上流、オロフレ山麓に小鉱床が散在している。褐鉄鉱床として大きなものは十キロメートルの距離に徳爵別鉱山、十一キロメートルの距離に白老鉱山六キロメートルの距離に幸内鉱山、二、五キロメートルの距離にカルルス鉱山、七キロメートルの距離に敷生鉱山が分布している。
又本件係争鉱区の地質は石英粗面岩及び同質角礫凝灰岩であつて、鉱区内の褐鉄鉱床は右岩石の上に含鉄冷泉が湧出し沈澱して生成したものであり、硫黄鉱床は同じく右岩石に鉱染或は昇奉して生成されたものであつて、昭和二十八年十一月二十五日附工業技術院地質調査所北海道支所の調査報告書によつても本件鉱区内に硫黄の賦存が確認されている。
以上右の各事実に徴すれば本件係争鉱区を包含する地域においては硫黄及び鉄鉱は共存し又は共存し得べき状態にて賦存するものというべく、本件鉱区の硫黄と鉄鉱とは同種鉱物として試掘権の設定許可がなさるべきものである。
六、なお札幌通産局は試登第五八九九号の登録鉱物と鉄鉱とは異種鉱物であるとして原告等に対しては鉄鉱を許可せず、訴外岩田一外二名に対し「鉄」の試掘権設定の許可処分をなし、これに対する原告等の異議に対しても被告は棄却の決定(本件決定)をなしたのであるが、右第五八九九号に許可登録されたる「明ばん石」と同族の「鉄明ばん石」は後記の通り一般に褐鉄鉱鉱床に伴い褐鉄鉱と共存するものであり、本件係争鉱区内においても褐鉄鉱と鉄明ばん石とは層状をなして交互に共存している即ち厚さ一米余の表土の下に厚さ二米に亘り層状にて良質の褐鉄鉱が存し、その下に厚さ一米程の層状にて鉄明ばん石、その下に厚さ一、五米程の層状にて稍々質の落ちる褐鉄鉱、その下に厚さ一、五米程の層状の鉄明ばん石、その下に一、五米程の厚さの褐鉄鉱が層状をなして夫々賦存している。
従つて本件鉱区においては鉄明ばん石と褐鉄鉱とは交互に層状をなして共存しているのであるから、被告等の胆振国試登第五八九九号の試掘権により褐鉄鉱を掘採せしめることこそ鉱物資源の合理的開発たるべく右第五八九九号の登録鉱物たる明ばん石と鉄鉱とは同種の鉱床中に存する鉱物であると言わねばならない。
鉄明ばん石は地表附近の酸化帯に褐鉄鉱などと共出するもので、我国の火山地帯の褐鉄鉱鉱床には鉄明ばん石を伴う可能性が多く(甲第七号証九頁)、現在まで知られた産地はすべて鉱泉沈澱褐鉄鉱床に伴うものである。(同号証二七頁)
即ち代表的なものとして郡馬鉄山、諏訪鉄山、明神山点床等北海道におけるものとしてはウトロ鉱山の鉱床、幌泊鉱床、日邦鉱山の鉱床、十勝岳の鉱床がある。(同号証一二頁~三五頁)
更に我国における褐鉄鉱の鉱床の分布と鉄明ばん石の分布との間には特別に異る傾向は見られず褐鉄鉱鉱床の分布する火山列からはどれからも鉄明ばん石鉱床が見出されている。(同号証四頁、三六、三七頁)
(尚鉄明ばん石の鉱床の生成過程、生成時代については乙第七号証三六~三八頁を参照)
被告も本件決定の理由中において「鉄明ばん石は含鉱冷泉、含鉄温泉に由来する褐鉄鉱床に伴うを通常とする」旨認めている。
被告は鉄明ばん石は明ばん石とは別異のものであり、鉄明ばん石は鉱業法第三条に規定する明ばん石でないと主張するであろうが、理由のないことである。
鉱物学的に見て鉄明ばん石が明ばん石族に属する鉱為であることは異論なく、明ばん石族の化学式は一般にA+B3+++(SO4)2(OH)6で表わされる。但しA+=K.Na.Pb.Rb.NH.Ag又はH2O.B+++=Al.Fe+++である。鉄明ばん石ではA+はKであつて、一部Naで置換されることがあるが、日本の褐鉄鉱床に産するものではNaは極めて少量である。B+++はFe+++であつてAlは極めて少量を認めるのみである。(甲第七号証三九頁)従つて右化学式の差異の限りにおいては両者異ると言えるであろうが、鉱業法第三条の法定鉱物としての明ばん石が同族の鉄明ばん石を除外するものとは到底考えられない。例えば鉱業法第三条は鉄鉱とのみ規定して褐鉄京、磁鉄鉱、赤鉄鉱等個別的に認定していない。若し鉄明ばん石が鉱業法の法定鉱物でないとするなら鉄明ばん石は鉱業権によらずして採掘し得ることとなり(鉱業法第三条、第七条)、肥料の原料たり得る鉄明ばん石は(同号証七八頁以下)法の規制なくして乱掘されることとならざるを得ず、鉱物資源の合理的開発を期し得ないであろう。
胆振国試登第五八九九号に許可登録されたる「明ばん石」と同族の「鉄明ばん石」とは一般に褐鉄鉱床に伴い、褐鉄鉱と共存するものであり、本件係争鉱区内においても褐鉄鉱と鉄明ばん石とは層状をなして交互に共存している。
即ち厚さ一米余の表土の下に厚さ二米に亘り層状にて良質の褐鉄鉱が存し、その下に厚さ一米程の層状にて鉄明ばん石、その下に厚さ一、五米の層状にて稍々質の落ちる褐鉄鉱、その下に厚さ一、五米程の層状の鉄明ばん石、その下に一、五米程の厚さの褐鉄鉱が層状をなして夫々賦存している。
依つて被告主張の通り出願地に限定したとしても明ばん石と褐鉄鉱とは同種鉱物である。
仮りに右主張が容れられないとしても本件係争鉱区にはその中央より北東に流れる一小溪谷に露出する石英粗面岩及び角礫凝灰岩はいずれも鉱化作用を蒙り漂白化或は青盤化し又往々硫化鉄を含んでおり、硫黄の鉱染鉱床の緑辺部には硫化鉄鉱床が随伴し、その上部には三米乃至七米を示す褐鉄鉱層が鉄明ばん石を随伴して賦存しているのであるから、硫黄、硫化鉄と褐鉄鉱とは同種の鉱床に存する鉱物である。
別紙(一)被告の主張
(1) 本件地区の硫黄と鉄鉱とは、同種鉱床に存する鉱物ではない。
鉱業法は、第五条、第十六条等の条文において、同種の鉱床又は異種の鉱床という言葉を用いているが、法自体には鉱床の異種同種の区別について何ら規定がないから、鉱業法第一条以下の各規定を比較考量してこれを合理的に決定しなければならない。従つて鉱業法上鉱床とは地殻中に存する鉱物の集合体であつて、鉱業の対象となるものをいうものと解すべく、また、鉱床の同種か異種かは単に鉱床を同一にするや否やによつてのみ決定すべきものでなく、鉱物の成因が同一であり、又は鉱物の賦存状況からして、両鉱物が共存するため同一鉱業権により掘採せしめることが、鉱物資源の合理的開発という見地からみて適当であるか否かによつて区別するのが相当であり、主務官庁としては従前よりこのような取扱をしているのである。
すなわち、通商産業省においては、右のような見地に立つて鉱床の異種同種を決定する分願基準を作成し、全法定鉱物を原則として五分類に分ち、取扱の一応の基準を示しているのである(乙第一号証昭和二十六年五月十一日付資源庁鉱山局長通牒第三六三号参照)。そして同通牒中(3)第五条関係の項において「異種の鉱床として扱う分類は原則として通牒に規定せる分類に従うべきこと」を指示し、また硫黄と鉄鉱とは原則として両種の鉱床中に存する鉱物として取り扱うこととされているのであるが、鉱床の成因上また鉱物の賦存状況の点からして、理論上においてもまた実際上においても、特にこの原則に拠ることを相当としない場合においては、この原則の例外を認めているのであるから、前記五分類も最終絶対的のものとしているのではなく、従つてまた硫黄と鉄鉱とを同種の鉱床中に存する鉱物として処理することの原則に対する例外的取扱を絶対に排除しているものではない。
(2) 北海道地区においては、
(イ) 札幌通産局管内の鉄鉱鉱床の賦存地域は、道南地域の胆振、渡島、後志の大部分であつて鉱床の成因についてみると第四紀時代の洪積層中に含鉄冷泉が湧出又は浸出し沈澱生成した褐鉄鉱床が多いこと。
(ロ) 北海道の鉄鉱鉱床は、殆んどすべて水成(沈澱)鉱床で、硫化鉄鉱の二次的変化によつて生成された鉄鉱鉱床とは成因を異にするものである。後者に属する鉄鉱鉱床の存在は、札幌通産局管内には稀有に属し、一、二の小鉱床を除いては稼行の対象となつたものはない。そのため前記五分類中「その他」の分類中から鉄鉱を削除し、硫黄およびこれと同種の鉱床に属する鉱物とは異種の鉱床として取り扱う必要があること。
(ハ) これに対し硫黄鉱床の生成は主として硫気ガスの作用に起因するものであり、水成(沈澱)作用による褐鉄鉱とは全く成因を異にしているといえること。
等の理由により、硫黄と鉄鉱とは、鉱物の成因上からも、また賦存状態からしても、異種鉱床と認められるので、従前から前記原則に対する例外的取扱により一貫しているのである。
これを具体的出願の処理についてみるも、昭和十五年一月一日より昭和三十一年五月一日までの間に同一区域についての硫黄及び鉄鉱の鉱業出願に対する許可登録件数は、ほぼ三四六件(硫黄鉱区一七〇件、鉄鉱鉱区一七六件)に達するのであるがこれ等は何れも硫黄と鉄鉱とを異種鉱床の鉱物として処理したものであつて、原告等主張のように同一区域について、硫黄と鉄鉱とを同種鉱床の鉱物として処理したものは一件もない。かようにみてくると、北海道地区に関する限り、むしろ硫黄と鉄鉱とを同種鉱床の鉱物として取り扱うことこそ却つて鉱業関係人に対する法益の均衡を失するものというべきである。
別紙(二)
一、原告は、被告が北海道地区の褐鉄鉱床の賦存の状態および成因の特性からして六分類の基準によつていると述べたのに対して、このような基準は、異種、同種を区別する基準にはならないと主張する。
しかしながら、被告が、これまで再三にわたつて主張したように鉱物の賦存の状態から同一鉱業権によつて掘採させることが札幌通商産業管内の鉱物の合理的開発という見地から見て適当であると判断して、六分類の基準を定めこれに従つて本件訴訟の目的となつている鉱区内の硫黄と鉄鉱とは異種に属するものと判定したものである。
本件出願に対する処分後において被告の調査した結果によつても、本件鉱区内においては、硫黄と鉄鉱とが共存する事業はみられないから、六分類に従つてした本件処分は適法のものといわざるを得ない。
また、原告は「本件出願区域が、面積百万坪の区域であるから、正に鉄鉱は賦存しているというべく云々」と主張するが、この点に関する原告の主張は論理に飛躍がある。なんとなれば硫黄の出願地域にたまたま鉄鉱が賦存していたとしても、そのことのみをもつて直ちに当該地域の鉄鉱が硫黄と同種鉄床中に存する鉱物であると断定することができないのみならず単に硫黄と鉄鉱が同一鉱区内に賦存することのみからして、両鉱物がすべて同種の鉱床中に存する鉱物であるとして同一鉱業権の目的になるとするならば、同一鉱区内における鉱業権の重複設定は法律上絶対にあり得ないことになり、鉱業法第十六条第一項但書及び第二項は空文に帰することとなるからである。
原告は、「第三紀層中の石英粗面岩に胚胎された硫化鉄鉱が二次的変化を受け、赤鉄鉱と共存する状態の個所も存するのであるから、……胆振国においては、硫化鉄と褐鉄鉱とは共存し、または共存し得べく、同種の鉱床に存する鉱物である。」と主張するが、この主張も単に胆振国の一部にそのような地域が存するというだけであつて、本件処分の適否とは直接何等関係がない。
さらにまた、原告は、被告が異種、同種の判定を鉱物の成因のみによつてしていると主張するが、そのような事実はなく、また、原告は、その出願にかかる鉄は、硫化鉄の二次的変化による褐鉄鉱のみを目的としたものではないと主張するが、原告が出願したのは硫黄のみを目的とするものであり(昭和二十五年八月十日出願)、昭和二十八年二月六日附でこの試掘権について採掘転願をしているのであるから、鉱業法第二十八条第一項により転願できるのは、硫黄と同種の鉱床中に存する鉱物に限られる訳であり、たとえ、願書に硫黄と共に記載してあつても異種の鉱床中に存する鉱物については転属が成立しない。
かりに、この転願を転願でなく、硫黄の試掘権と異種の鉱床中に存する鉄鉱等を目的とする出願であるとすれば、訴外岩田外二名の鉄鉱を目的とする出願は、昭和二十六年五月六日になされているのであるから、原告の出願は、後願として不許可にならざるを得ないことになる。従つてこの点に関する原告の主張は、失当である。
なお、原告の挙示する日鉄鉱業株式会社脇方鉱山の事例については、電気探鉱により金属鉱物らしいものの示徴がみられたので、ボーリングをしたところ、硫化鉄鉱がわずかに鉱染している岩石の存在がわかつたのにすぎない。したがつて、その硫化鉄が褐鉄鉱と同種鉱床中に存する鉱物であるか否かについていけだ断定を下すまでの段階に立至つていないのである。
二、原告は、胆振国内の鉄鉱に他の鉱物を含む採掘鉱区を挙示し鉄掘と他の鉱物が同種鉱床中に存する鉱物として取り扱われている旨主張しているが、これらの鉱区について、鉄鉱と他の鉱物とを認めた理由は、次のとおりであつて、これらの鉱区内における鉱物の賦存状況の特殊性を考慮して、処理したものである。
(一) 採登第四十三号(鉄、ひ鉱)について。
本鉱区内の鉄鉱は、砒素の含有率が極めて多く、戦後は、売鉱できなかつたが、焙焼による脱砒の方法が完成した結果売鉱できるようになつたので、申請により昭和二十四年二月二十一日ひ鉱の追加を認めたものである。
本鉱区の褐鉄鉱床は、硫酸性の含鉄冷泉から、化学的に沈澱したものであつて、その生成の時期は第四紀であると考えられる。同鉱床は、東西約四〇〇米、南北約一五〇米で楕円形を呈し、厚さは七米から十一米である。層は、沈澱当時の地形に支配され、西方に約一〇度から十五度傾斜しており、明らかな層理を示している。鉱石は、多く暗褐色を呈し、比較的光沢が強く、良好な塊状をなしている。一部には、層理または褐鉄鉱の割れ目にそつて黄色粉末状の部分を含むことがある。
砒素の品位をみるに、褐鉄鉱床中白色帯緑白色の部分は、含有量が多く、ASとして10%くらいから18%に及ぶものもみられ、平均砒素含有率は、3%から6%である。この事実からして、ひ鉱の少くとも一部は白色または帯緑白色の鉱物として存在するものと考えられる。この鉱物は、スコロド石である。
以上のとおり砒素は全く褐鉄鉱床中に存在するものであるから、同種鉱床に層する鉱物として認めたものである。
(二) 採登第六十七号(鉄、マンガン鉱)について。
本鉱区地帯に賦存する鉱床は、褐鉄鉱、マンガン土、硫黄である。同鉱区内の褐鉄鉱床は、イワオベツ川の右岸に、旧小川温泉を中心にして約三〇〇米にわたつて、イワオベツ川の河岸から山腹にかけてほぼ二〇〇米の範囲内に認められている。その基磐は含角礫粘土層でこれを被覆して褐鉄鉱層が拡がつている。マンガン土鉱床は右に述べた褐鉄鉱体に密接し、その東端部を縁取つて分布するものと、さらに、東南へ約二五〇米隔だつた熊の沢ぞいに胚胎するものとがある。
マンガン土鉱床は、幅六米内外で、東側は山地から落下して押し出してきた岩塊の間を埋めているが、西側では成層状態をなして褐鉄鉱層の上を被覆して拡がつている。
以上のとおり、本鉱区内の褐鉄鉱床とマンガン鉱床は共存し、同一鉱業権により鉱採させることが合理的であるので、同種鉱床として認めたものである。
本鉱区地帯に賦存する硫黄については、前記の鉄、マンガン鉱床とは異種鉱床に属するものと認め、これに対し別に試掘権を設定し、同鉱区は、昭和二十四年五月三十一日まで存続した。
(三) 採登第二十一号(金銀銅亜鉛鉄鉱)について。
本鉱区は、明治四十五年一月四日に金銀銅亜鉛鉱として設定されたもので、大正七年九月二十三日に鉄鉱の追加を認めたものである。その理由は、本鉱区内における黒鉱鉱床(金銀銅亜鉛鉱)の硫化鉱物の強い部分が酸化して二次生成物として褐鉄鉱が生成されている事実が判明したからである。
(四) 採登第一三三号(金銀銅硫化鉄鉄鉱)について。
本鉱区の鉱床は、新第三紀中部豊涌層の石英粗面岩質凝灰石およびネバダイト質石英粗面岩の接触部に主として胚胎する層状の熱水性交代鉱床と考えられる。鉱石は、赤鉄鉱および硫化鉄鉱であつて、硫化鉄鉱と酸化鉄鉱は共存し、相互に随伴する状態にあるので、同種鉱床として認めたものである。
別紙(三)
原告等は、胆振国試登第五八九九号の鉱種名は、金、銀、銅、硫黄、硫化鉄及び明ばん石と登録されていて、本件鉱区内には褐鉄鉱と鉄明ばん石とが層状をなして交互に共存しており、鉄明ばん石と明ばん石とは同族のものであるから、明ばん石と鉄鉱とは同種の鉱床中に存する鉱物であると主張するが、本件鉱区内には鉄明ばん石の存在の事実が認められないのみならず、明ばん石と鉄明ばん石とは次に述べるごとく全く異なるものである。
すなわち、明ばん石は、硫黄鉱床および、これと成因的に密接な関係にある硫化鉄鉱床またはろう石鉱床に伴うことが通例であつて、その成分はK2O(カリ分)、Al2O3(アルミナ分)、4SO3(鉱酸分)、6H2O(水分)である。またその成因は一般に安山岩または凝灰岩類等が酸性水液の作用により母岩の一部または特にそのなかの長石が交代されて生成されたものであると考えられる。
他方俗に鉄明ばん石と称されているjarosite(鉄明ばん石の名称が全くの俗称であることは、地学辞典=古今書院発行=のなかにもかかる名称はなく、これに該当するものはジヤロソン石として記載されている。また、文部省に設置されている学術用語文化審議会の地学用語専門部会で決定した地学用語選定原案のなかにもこれに該当するものはジヤロソン石として記載されていることからしても明らかである。)は、地表に湧出した含鉄鉱泉から化学的沈澱作用により生ずるもので、主として褐鉄鉱床に伴うことが通例であつて、その成分はKFe3(SO4)2(OH)6(塩基性硫酸分)である。また明ばん石のアルミナ分(Al2O3)は±30%であるのに対し鉄明ばん石(jarosite)のアルミナ分は±1%であり明ばん石の鉄分(Fe2O3)は±1%であるのに対し鉄明ばん石の鉄分は±5%であつて、明ばん石はアルミナ分を主成分とする鉱物であるのに対し鉄明ばん石は酸化鉄を主成分とするものである。
結局、鉄明ばん石(jarosite)は明ばん石と名称ならびに化学成分の点からして一見類似性を有するかのごとく考えられやすいが、その生成上からみれば全く別のものであつて両者は本質的に異なるものである。
従つて、かりに原告等の主張するように本件鉱区内において鉄明ばん石が褐鉄鉱と互層をなしていても、前述したとおり鉄明ばん石は明ばん石ではなく、本件鉱区内の鉄鉱と金、銀、銅、硫化鉄鉱、硫黄及び明ばん石とが同種鉱床中に存することにならないから、原告等の主張は失当である。